次のチェンマイ旅行は、あえて飛行機を使わず、134バーツ(約600円)で移動してみませんか。
この提案に興味を惹かれた方へ向けて、タイ鉄道旅の魅力を解説します。
特急の寝台券が1,000バーツを超える中、その10分の1以下の価格で走り抜ける「普通列車(Ordinary Train)」の乗り継ぎ旅。
私もいつか実行したいと胸に秘めている、タイ鉄道旅の「聖域」とも言えるルートを徹底解説します。
確定スケジュールと運賃:134バーツの衝撃
旅のルールは「急がない、冷房を求めない、地元に混じる」の3点です。
合計運賃はランチ1回分ほどに収まります。
- 列車番号: 普通 201列車
- 時刻: クルンテープ・アピワット駅 09:25発 → ピサヌローク駅 17:55着
- 運賃: 69バーツ
- 体験: 都会から田園風景へ。窓全開で受ける風と、駅ごとに変わる物売りの声がBGMです。
- 列車番号: 普通 407列車
- 時刻: ピサヌローク駅 07:30発 → チェンマイ駅 14:35着
- 運賃: 65バーツ
- 体験: この旅のクライマックス。険しい山を越え、タイ最高地点のトンネルをくぐり抜けます。
出発点:クルンテープ・アピワット中央駅(バンスー)でのチケット購入手順と注意点
134バーツの旅の始まりは、タイ国鉄の巨大な総本山「クルンテープ・アピワット中央駅(旧称:バンスー中央駅)」です。
最新設備の整った近代的な駅舎ですが、普通列車のチケット購入には、この駅ならではのルールと注意点があります。
チケットは「当日窓口販売」が鉄則
普通列車(Ordinary Train)の3等席は、オンライン予約や事前購入が一切できません。
乗車当日に駅へ向かい、窓口で直接チケットを購入する必要があります。
普通201列車の出発は09:25ですが、余裕を持って1時間前には駅に到着しておくのが確実です。
購入手順と必要なもの
駅構内にある「長距離列車(Long Distance)」のチケットカウンターへ向かいます。
窓口のスタッフに「ピサヌローク、オーディナリー・トレイン(Ordinary Train)」と伝えましょう。
購入時にはパスポートの提示が求められます。
コピーで対応できるケースも見られますが、原本の持参が推奨されます。
支払いは現金のほか、クレジットカードやQR決済も選択可能です。
「プラットホーム」の確認を念入りに

クルンテープ・アピワット駅は非常に広大です。
特急列車などは高架ホームから発着しますが、普通201列車のような普通列車は、地上にある「地上ホーム(Low-level Platforms)」から発着することが一般的です。
チケットを購入したら、電光掲示板で「Train No. 201」のゲート番号を必ず確認し、スタッフにも「地上ホームか?」と一言確認することをお勧めします。
注意点:食料と水の事前確保
駅構内にはフードコートやコンビニがありますが、ホームに降りてしまうと売店は限られます。
普通列車には食堂車がないため、8時間半の長旅に備え、あらかじめ水や軽食を買い込んでおくと安心です。
もちろん、その後の駅弁売りに備えて胃袋に余裕を持たせておくことも忘れてはいけません。
1日目の車内体験:中央平原を北上する8時間半と物売りとの触れ合い
バンコクの都会的な喧騒を背に、列車がゆっくりと北へ動き出すと、車内には「普通列車」でしか味わえない独特の活気が満ち始めます。
窓を全開にして吹き込む風は、次第にビルの排気ガスの匂いから、乾いた土と草の香りに変わっていきます。
このルートの醍醐味は、停車駅ごとに車内に乗り込んでくる、物売りたちとの一期一会の出会いです。
駅ごとに変わる「ご当地グルメ」
タイの普通列車は、ただの移動手段ではなく、動く市場のような側面を持っています。
大きな籠を抱えた物売りたちが「ガイヤーン(焼き鳥)!」「カオパット(炒飯)!」とリズム良く声を上げながら通路を通り抜けます。
ナコンサワン駅付近で売られる香ばしい焼き鳥や、プラスチック容器に入った10〜20バーツ程度の素朴な弁当。
これらは、派手な装飾こそありませんが、地元の人々に愛され続けてきた本物の「タイの日常の味」です。
言葉を超えた「食」のコミュニケーション
冷たい飲み物や果物を売る人から、20バーツ札を数枚渡して商品を受け取る。
その際、お釣りとともに返ってくる「コープクン・カップ(ありがとう)」という何気ない笑顔。
隣の席のタイ人が、買ったばかりのお菓子を「食べてみるかい?」と差し出してくれるような、温かい光景も珍しくありません。
エアコンの効いた静かな特急列車では決して起こり得ない、人と人の距離がぐっと縮まる瞬間がここにはあります。
五感で楽しむ鉄道旅の原風景
3等車の木製座席に身を預け、ガタンゴトンという規則的な振動を全身で感じながら、窓の外に広がる広大な中央平原を眺めます。
水田で水浴びをする水牛、踏切待ちをしているバイクの群れ、そして夕暮れ時に赤く染まる地平線。
時折、風に乗って流れてくる土埃すらも、この134バーツの旅においては、物語を彩る大切なエッセンスの一部となります。
ピサヌロークでの宿泊:駅近くの安宿ガイド

同日中にチェンマイへ着く普通列車はないため、ピサヌロークでの1泊は避けて通れません。
翌朝07:30の出発に備え、駅から徒歩圏内、あるいは確実性の高い宿を確保するのがこの旅の鉄則です。
徒歩圏内のゲストハウス
Karma Home Hostel
駅から徒歩約5〜7分。
バックパッカーが集うこのホステルは、夜の到着でも安心感があります。
ドミトリーでさらに節約するか、個室で翌日の山越えに備えるか。
旅のスタイルに合わせて選べます。
安心のチェーン店
Hop Inn / B2 Hotel
チェンライのHop Innに泊まったことがありますが、とても良かったです。
値段もお手頃で、この系列のホテルはおすすめです。
「安くても、部屋のクオリティは譲れない」なら、タイ全土に展開するこの2つのブランドが確実です。
24時間フロント対応のため、1日目の列車が大幅に遅延してもチェックインを拒まれる心配がありません。
2日目のハイライト:山岳地帯の車窓の見どころ
ピサヌロークを出発した列車が北上を続け、ウッタラディットを過ぎると、それまでの平坦な田園風景は一変します。
ここからは、エンジンの唸りとともに景色が劇的に変化する、この旅最大のクライマックス。
窓から身を乗り出したくなる絶景が次々と現れます。
座席に関しては、左側の車窓からより優れた景色を望めます。
クンターン・トンネル
タイの鉄道員たちが命懸けで掘り進めた、タイで最も高い場所(標高約578メートル)にある全長1,352メートルの歴史的トンネルです。
暗闇の中、ディーゼル機関車の排気音と熱気が車内に満ち、ようやくトンネルを抜けた瞬間に広がる山の澄んだ空気。
それは、エアコン車では決して味わえない、温度と匂いを伴う「香る景色」です。
ターチョンプー橋(白橋)
クンターン駅を過ぎ、深い緑の谷に突如として現れるのが、真っ白なコンクリート製のアーチ橋です。
この「白橋」が見えたら、長い旅のゴールであるチェンマイまではあと少し。
それまで沈黙していた乗客たちの間に、期待に満ちた「もうすぐ着くぞ」という静かな連帯感が生まれる瞬間です。
ドイ・クンターン国立公園
線路のすぐ脇まで原生林が迫り、時には木々の葉が車体に触れそうなほどの距離感を走行します。
線路と森を遮るフェンスも、防音壁もありません。
これは、整備された高架を走る近代的な鉄道では不可能な、鉄道と大自然が呼吸を合わせるような共存の姿です。
まとめと旅の心構え:134バーツの旅を「最高の思い出」にするために
バンコクからチェンマイまで、134バーツの普通列車を乗り継ぐ旅は、単なる移動ではなく、タイの空気と日常に全身で浸る「体験型のアトラクション」です。
実体験のない私が、それでもこの旅に強く惹かれ、入念に下調べをして導き出した、完走のための心構えをまとめます。
1. 「遅延」を旅のスパイスに変える
タイの鉄道、特に普通列車において時刻表は「予定」に過ぎません。
1〜2時間の遅延は日常茶飯事であり、それをストレスに感じてしまうと、この旅の魅力は半減してしまいます。
「遅れている分、長く車窓を楽しめる」「予定外の駅で面白い物売りに出会えるかも」といった、心の余白を持つことが、この旅を成功させる最大の鍵です。
2. 3等車を攻略する「三種の神器」
過酷な環境を少しでも快適にするために、以下のアイテムは必須だと確信しています。
- ウェットティッシュ: 窓全開で走るため、顔や腕が煤(すす)で驚くほど黒くなります。リフレッシュのためにも多めに持参しましょう。
- 折り畳みクッション: 木製の直角座席に合計15時間以上座り続けることになります。100円ショップの簡易的なものでも、腰への負担が劇的に変わります。
- トイレットペーパー: 3等車のトイレには備え付けがないことが多いため、芯を抜いたロールを一つバッグに忍ばせておくと安心です。
3. 「郷に入れば郷に従う」の精神で
この列車に乗っているのは、観光客ではなく、生活のために移動する地元の人々です。
大きな声で騒がない、周囲と笑顔で会釈を交わすといった、ささやかなマナーが旅を豊かにします。
物売りから買った食べ物を隣の人と分け合うような、タイらしい穏やかなコミュニケーションが生まれたなら、その旅はもう134バーツ以上の価値があると言えるでしょう。
おわりに
効率や清潔さを求めるなら、迷わずLCCの航空券を予約すべきです。
しかし、飛行機の高度からは見えない景色、エアコンの風では運べない土の匂い、そして不便さの先にある達成感が、このルートには確かに存在します。
私もいつか、チェンマイ駅のホームに降り立ち、煤で汚れた顔を拭きながら「最高だった」と独りごちる日を夢見ています。
あなたも、この「究極の不自由」を楽しみに出かけてみませんか?
