東京都羽村市。ここには、かつて「水の確保」という難題に挑んだ先人たちの知恵が、今も息づいています。
一方は、江戸八百八町の喉を潤すために作られた、全長43kmにも及ぶ壮大な「玉川上水」。
もう一方は、カタツムリのような不思議な曲線を描き、深く掘り進められた「まいまいず井戸」。
どちらも、水を得にくい武蔵野台地という厳しい地質を克服するために生み出された、この地ならではの歴史遺産です。
今回は、実際に現地を歩いて撮影した写真を交えながら、その独特な構造の秘密や、今こそ訪れたい散策コースの魅力を詳しくお届けします。
歴史好きの方はもちろん、週末のウォーキングスポットを探している方も、ぜひ最後までご覧ください。
まいまいず井戸:螺旋(らせん)状に刻まれた生存の知恵

羽村駅のすぐ近くに位置する「まいまいず井戸」は、東京都指定文化財にも登録されている貴重な史跡です。
一見すると巨大なアリ地獄のような、あるいは円形劇場のような不思議な形をしていますが、この造形には武蔵野台地ならではの切実な理由がありました。
なぜ「螺旋(らせん)状」なのか?その驚きの理由
- 崩れやすい地質: 武蔵野台地のこの付近は、関東ローム層や砂礫層(されきそう)という、非常に脆く崩れやすい土壌です。
- 垂直に掘れない制約: 現代のような強固なコンクリート技術がない時代、垂直に深く掘り進めると壁面がすぐに崩落してしまう危険がありました。
- 知恵の結集「まいまい構造」: そこで、まず地上を大きくすり鉢状に掘り下げ、その内壁に「螺旋状の通路(スロープ)」を設けることで、安全に底の井戸までたどり着けるようにしたのです。
「まいまい」とは、この地方の言葉で「カタツムリ」を指します。底に向かってぐるぐると回る通路がカタツムリの殻を連想させることから、親しみを持ってそう呼ばれるようになりました。
実際に井戸の底を覗き込むと、当時の人々がいかにして「水」という生命線を確保しようとしたか、その執念と知恵の結晶を肌で感じることができます。
単なる古い井戸ではなく、この土地の厳しい環境を克服した「生存のための土木遺産」と言えるでしょう。
玉川上水:世界に誇る江戸の巨大インフラ

「まいまいず井戸」が地域のための知恵なら、こちらの「玉川上水」は江戸という巨大都市を支えるために造られた、当時の国家プロジェクトともいえる巨大インフラです。
わずか8ヶ月で完成!驚異のスピードと技術
1653年、急速に人口が増え続ける江戸の飲料水不足を解消するため、幕府は多摩川からの上水開削を決定しました。
この大事業を請け負ったのが、のちに「玉川」の姓を賜る玉川庄右衛門・清右衛門の兄弟です。
特筆すべきは、羽村から四谷大木戸までの全長約43kmをわずか8ヶ月という驚異的なスピードで掘り抜いたことです。
この区間の標高差は約92mしかなく、100メートル進むごとにわずか21センチ下がるという、極めて精密な勾配(約0.2%)が保たれています。
- 高度な測量技術: 夜間に提灯の火を使い、高低差を確認しながら進めたといわれる職人技。
- 現役の水道施設: 誕生から370年以上経った今も、羽村から小平監視所までは現役の導水路として、都民の飲み水の一部を支えています。
- 多摩川をせき止める「羽村取水堰」: 川の流れに逆らわず、増水時には壊して水を逃がす「投渡堰(なぎわたしぜき)」の技法は、世界的に見ても貴重な土木遺産です。
現在、上水沿いは緑豊かな遊歩道として整備されています。冬には凛とした空気の中、透き通った水面を眺めながら歩くことができ、当時の土木技術の結晶を間近に感じることができます。
まいまいず井戸と玉川上水のQ&A:よくある疑問を解説
- まいまいず井戸は、なぜあのような形をしているのですか?
- 武蔵野台地の地質が「砂礫層(されきそう)」で崩れやすかったためです。垂直に深く掘ることが困難だった時代に、周囲を大きくすり鉢状に掘り下げ、その壁面に螺旋状の通路(スロープ)を設けることで、安全に底の井戸まで降りられるよう工夫されました。
- 「まいまいず」という名前の由来は何ですか?
- 武蔵野台地の地質が「砂礫層(されきそう)」で崩れやすかったためです。垂直に深く掘ることが困難だった時代に、周囲を大きくすり鉢状に掘り下げ、その壁面に螺旋状の通路(スロープ)を設けることで、安全に底の井戸まで降りられるよう工夫されました。
- 玉川上水はいつ、誰によって造られたのですか?
- 江戸時代初期の承応2年(1653年)、幕府の命を受けた玉川庄右衛門・清右衛門の兄弟(玉川兄弟)によって開削されました。多摩川から引き込まれた水は、江戸(現在の新宿・四谷付近)まで約43kmにわたって送られました。
- 玉川上水は、現在も使われているのですか?
- はい。羽村取水堰から小平監視所までの区間は、現在も東京都水道局の導水路として現役で活用されています。そこから下流の区間は、一度流れが途絶えましたが、現在は「清流復活事業」によって処理水が流され、憩いの場として親しまれています。
羽村駅からのおすすめ散策ルート:歴史と自然を満喫する1.5時間
「まいまいず井戸」と「玉川上水(羽村取水堰)」は、どちらもJR青梅線「羽村駅」から徒歩圏内にあります。
初めて訪れる方でも迷わず回れる、おすすめの散策ルートをご紹介します。
【モデルコース】所要時間:約1時間30分
駅の目の前、西友の横の通りにあります。まずはその巨大な螺旋構造を上からじっくり観察しましょう。
西口側へ移動し、奥多摩街道を越えて多摩川方面へ。江戸時代の技術が今も息づく取水口と、勢いよく流れる水の迫力を体感できます。
取水堰から下流に向かって整備された遊歩道を歩きます。春は桜、冬は澄んだ水面が美しいスポットです。
- 歩きやすい靴で: まいまいず井戸のスロープを降りる際や、上水沿いの未舗装路を歩くため、スニーカーがおすすめです。
- トイレ・休憩スポット: 羽村駅周辺や、羽村取水堰の近くにある「玉川上水羽村陣屋跡」付近に公衆トイレがあります。
- 撮影ポイント: まいまいず井戸は広角で、玉川上水は水面に近いローアングルで撮影すると、当時の土木工事のスケール感がより伝わります。
| 項目 | まいまいず井戸(五ノ神まいまいず井戸) | 玉川上水(羽村取水堰) |
|---|---|---|
| 所在地 | 東京都羽村市五ノ神1-1(五ノ神神社境内) | 東京都羽村市玉川1-1先 |
| アクセス | JR青梅線「羽村駅」東口より徒歩2分 | JR青梅線「羽村駅」西口より徒歩15分 |
| 見学料 | 無料 | 無料 |
| 定休日 | なし(24時間見学可能) | なし |

